貴文がプロポーズするまでの道のりを記したブログ
リリースの日付 : 2010 - 02 - 07
技術の進歩は新たな体験を利用者にもたらし続けてきたが、著作権法が思わぬブレーキをかけることもある。今年、本格離陸すると思われる「3D」についても、その懸念はある。
これまで著作権法は、主にデジタルコンテンツ配信の面でブレーキになることが多く、それに対応する策が数々講じられてきた。しかしながら現状は、ネット権構想にしてもフェアユース導入にしても、いまひとつ具体的な成果や仕組みの転換にはさしかかっていない。
先日発表されたApple「iPad」をきっかけに、日本でも電子出版に対する機運が高まってくると思いきや、出版、特に雑誌、新聞業界の反応は冷ややかで、熱狂で迎えるとはほど遠い状況である。やはり既存インフラである紙の製本・出版・販売といったものへの影響を懸念しているのか、電子出版特有の値頃感とスピード感を出すまでにはなかなか至らないようである。
次いで筆者がもうひとつ懸念しているのは、著作権法による技術振興へのブレーキだ。今年1月に行なわれたInternational CES 2010では、東芝が米国向けCELL TV(日本名 CELL REGZA)に、2Dコンテンツを3Dにリアルタイム変換する機能(東芝、3D対応「CELL TV」 2Dコンテンツも3D変換)を加えた。
始めから3D用に作られたコンテンツが3Dで見えるのは当たり前だが、いかんせんまだそれほど、HD解像度の3Dコンテンツは多くない。そこで家電メーカー各社だけでなく、コンテンツ業界も含めて、2D-3D変換技術には力を入れてきている。
おそらく日本向けの次期CELL REGZAも、ほぼこの米国で発売されるモデルと同じスペックになるとみられるが、日本向け製品にはこの3Dのリアルタイム変換機能は搭載されない見通しである。それはなぜか。著作権法上の、同一性保持権の侵害にあたるという懸念があるからである。
画面表示を巡る争い
テレビ画面の表示を巡っては、過去にもテレビメーカーと放送局の間で激烈な戦いが繰り広げられてきた。今ではあまり珍しくない機能だが、以前は視聴中の番組と裏番組を同時に2画面表示する機能に関して、放送局が待ったをかけたこともある。
裏番組が同時に見られることに対して抵抗を示す気持ちもあったと思われるが、当時議論になっていたのは、2画面にすることでそれぞれの画面の一部がトリミングされてしまったり、アスペクト比が変わってしまうことだったようだ。
その後ろ盾となったのが、著作権法の同一性保持権である。すなわち著作権者の「意図しない改変」が行なわれない権利だ。著作権者は、自分の作った番組が2画面表示になることで一部隠れたりすることを意図していない、というわけである。現在2画面表示できるテレビはいくつかあるが、どれも画面を縮小するなどして、それぞれの画面が隠れないような表示になっているはずである。
近年同じようにせめぎ合いの行なわれているのが、テレビ画面上にネットからの情報を表示する、テレビ用ウィジェットだ。2008年に米Intelと米Yahoo!が開発したプラットフォームを用いれば、Windowsユーザーにはおなじみのウィジェットが、テレビで利用できる(IntelとYahoo!、テレビ向けウィジェットプラットフォームを発表)。
もちろんそれに対応したテレビが必要である。現時点ではソニー「BRAVIA」で対応のモデルがあるが、ウィジェットを表示する時には、テレビ番組画面が小さくなって、ウィジットを表示するスペースを空けるようになっている。一方、米国で販売されているテレビは、画面上にそのままウィジェットが表示される。
これはユーザーが望んだ仕様だろうか。ウィジットが出るとテレビ番組画面の一部分が見えなくなるので困る、というのであれば、ウィジェットを引っ込めればいい。テレビ用ウィジェットは、Windows用のそれとは違い、常時画面の左端を占有するようなものではないのだ。
テレビ画面上にウィジェットを表示するのは、その情報を見たいとユーザーが思ったときである。従ってユーザーの注意や視点はウィジェットのほうに向けられており、そのときテレビ番組がフルに表示されている必要などない。
しかし、テレビ番組の上に何かを表示するというのは、著作権法の同一性保持権侵害による訴えを起こす前に、ARIBの規定で問題になる。地上波ではARIB TR-B14 「9.3 放送番組及びコンテンツ一意性の確保」という項目に、「放送番組及びコンテンツの表示中に、それと全く関係がないコンテンツ等を意図的に混合、または混在提示しないこと。」という規定がある。BSとCSに関しても同様の規定がある(ARIB TR-B15)。
例えばドラマの最中に、ふと気になって画面上に天気予報のウィジェットを表示させたとしよう。ドラマと明日の天気の間には相関関係がないため、上記規定に引っかかることは、容易に予想できる。
そこにユーザーの意志や利便性は関係なく、あくまでも番組をなんにもいじらずに見せたいだけのテレビ局の意向で、ARIBの規定ができあがっていることがよく分かる。
2D-3D変換は改変にあたるか
2D-3D変換機能は、少なくともARIBの一意性の確保の項目には当てはまらないと思われる。なぜならばこれは、コンテンツの複数表示ではなく、コンテンツそのものの表示体系の問題だからである。だからこそ逆に、著作権法の同一性保持権の侵害にあたる可能性は高まってくるとも言える。
ただ、コンテンツの性質を変えるようなことは、これまでにも行なわれてこなかったか。そうではないだろう。例えばオーディオのイコライザや、テレビの画質調整機能は、ある意味ユーザーが望む状態にコンテンツの性質を変える機能だといえる。そして、それらは必ず使わなければならないものではなく、ユーザーの意志で機能をOFFにできるものである。
2D-3D変換機能も、これらと同じようなものではないのか。しかしこれに関してメーカーが慎重にならざるを得ない理由は、意外な裁判の影響がある。
2001年に最高裁判決がでた、「ときめきメモリアル事件」がそれだ(ときメモ“いきなりエンディング”データはやっぱり違法──最高裁判決 )。この裁判に関しては、筆者よりも詳しい方がいくらでもいらっしゃると思うが、ご存じない方のために簡単に解説しておこう。
「ときめきメモリアル」というゲーム自体は、プレイヤーが操作するキャラにさまざまな能力を身につけさせることで、ヒロインから告白を受けるという、いわゆる恋愛シミュレーションゲームである。このゲームに対しある会社が、パラメータの初期値をあらかじめ高く設定し、誰でもヒロインと恋人同士になれるようにするメモリーカードを販売した。これをゲーム制作会社側が、同一性保持権の侵害で訴えた事件である。
この裁判では最終的にゲーム制作会社の主張が認められ、ゲームのようにインタラクティブで、結果がいろいろ変わるというものだとしても、本来想定された範囲を超えたストーリーの改変であるとし、同一性保持権の侵害に当たるということとなった。
この裁判のもうひとつの意味は、ユーザーが家庭内において、ユーザー自身が好んでやる改変であっても、その機能を提供する側が同一性保持権の侵害にあたる、ということである。2D-3D変換も、これに該当する可能性が高いため、現時点ではメーカーは機能搭載を見送らざるを得ないというわけだ。後付けで2D-3D変換を行なうプロセッサなども、業務用ならともかく、コンシューマ製品ではおそらく同様の問題に直面するだろう。
今これらの技術が一番進んでいるのは、日本の家電メーカーである。しかしその製品は、日本では販売できない。
CESでソニーが行なったプレスカンファレンスでは、ジミ・ヘンドリックスの往年のライブが3D化されて、上映された。2Dでは何度も見たことがある有名な映像ではあったが、実際に本物のライブはどうやっても見ることができないわけで、立体的に再現されたジミの姿に、また新たな感激が生まれた。
皆さんの中にも、思い出深い映像を大事に保存している人も多いことだろう。そしてそれらの映像の多くは、もう今さら3D化されることのない映像が大半なのではないだろうか。とくに自分が撮影した子どもの運動会や学芸会などは、絶対に市販されることがないわけだから、3D化するなら自分でやるしかないわけである。
そういう映像を、消費者の個人的な楽しみとして、対応テレビで3D化して見ることができないというのは、大変残念なことである。できればこの機能が、権利者とメーカー側の前向きな話し合いにより、日本人も世界の人と同じように楽しめる日が来ることを、願わずにはいられない。